二つの顔をもつ戦闘機「飛燕」

三式戦闘機「飛燕」は、第二次世界大戦中に陸軍が正式採用をした唯一の液冷発動機を装備した戦闘機です。レシプロ発動機には空冷と液冷の二種類が使用されます。それぞれの特徴を見てみましょう。

空冷発動機は零戦、隼、F4Fワイルドキャット、P-47サンダーボルトといった戦闘機に装備された発動機です。大きな利点は、プロペラを回すことだけならば比較的容易で、液冷に比べ整備は難しくなかったことです。また外気を取り込み発動機を冷やす構造上、被弾にある程度耐えることができました。星型に配置されたシリンダーは円の外に向かって延びているため、直径を絞りにくいことも特徴です。そのため馬力を増やすと相対的に発動機も大きくなり、結果航空機も大きくなってしまう弱点がありました。

三式戦闘機「飛燕」、スピットファイア、Bf109、P-51マスタングなどの戦闘機は液冷発動機を装備しています。液冷の特徴は、空冷に比べ発動機を冷やす能力が高かったことに加え、大馬力の発動機でも比較的小型に設計することができました。そのため機体の機首も絞り込め、きれいな流線型を作ることができたため、飛行効率は高かったようです。しかし液冷タンクに被弾してしまうと液漏れを起こし、発動機があっという間にオーバーヒートしてしまい、さらに空冷に比べて整備も難しく、発動機不調の機体も多かったことも少なくありませんでした。

三式戦闘機の開発にあたり、陸軍はBf109に使用しているダイムラーベンツ製液冷エンジンを模倣し、国産化した戦闘機を開発せよと川崎に命じました。隼が軽戦、鍾馗が重戦という認識に疑問を持つ川崎は、この戦争では全てにおいて勝る戦闘機を開発しなければならず、軽戦重戦と取り立てるのは無意味だと主張しました。そのため飛燕は連合国戦闘機を凌駕する戦闘機を目指して開発されました。

こうして完成した飛燕は、当時の液冷発動機を装備した航空機の中でも傑出した戦闘機となりました。隼の格闘能力をそのままに、鍾馗の速度と上昇力を兼ね備え、液冷発動機の特徴である先細りの機首により急降下速度も抜群の戦闘機となりました。すぐさま前線へ配備されましたが、今まで液冷発動機を整備したことのない整備兵にとって非常に厄介な発動機で、実力はカタログスペックの半分程度しか発揮できませんでした。また発動機の生産も滞るなか、20mm機関砲を装備したりとバージョンアップを続けていましたが、ついには発動機が間に合わず、発動機のない飛燕が並んでしまう有り様でした。

戦争末期になると、この首無し機体の使い道について検討されました。もともと航空力学的に優れた胴体と翼を持っていたため、整備の難しい液冷発動機をやめ、空冷発動機へと換装され新たに生まれ変わることになります。これが五式戦闘機と呼ばれます。蛇足ですが、海軍の艦上爆撃機「彗星」も後に液冷から空冷に換装されています。

速度はエンジンカウルが大きくなってしまった関係で落ちてしまいましたが、優れた操縦性は健在で戦争末期の戦力乏しい中、連合国の最新鋭機と互角に渡り合ったそうです。

次回は同じく二つの顔をもった、海軍の局地戦闘機紫電改」をご紹介します。