海軍最強の邀撃機「雷電」

中国戦線では、中華軍の爆撃機から少なくない被害を被っていました。それまで最新鋭機を数々導入してきましたが、爆撃機を発見し邀撃に当たるまで零戦や隼では、爆撃機の高度まで上昇するのに時間がかかりました。そのため海軍は新たな航空機に優れた速度と上昇力、頑丈な爆撃機を撃墜するため大火力を前提に性能を要求しました。

三菱ではそれまでの零戦の800馬力の発動機ではこの要求を達成できないと考え、本来一式陸攻といった爆撃機に搭載する大馬力の発動機を単座戦闘機に搭載することにしました。海軍による性能テストでは、大馬力の発動機を搭載したにも関わらず、零戦と速度が変わらずしかも多くの問題を抱えた雷電の生産を躊躇しました。

発動機の直径が大きくなったことで、雷電の機体は紡錘型と呼ばれる葉巻のような形となり、発動機の肥大化によって前方視界が悪くなり、さらに各部品の剛性が低いために運用上支障をきたす大きな振動がおこり、ついにはテスト中殉職者を出してしまいました。低速域での操縦性に優れ、着陸も容易だった零戦に乗っていた搭乗員たちは、雷電に乗りたくないとまで考えていました。

海軍も同時期に登場した紫電改の生産を一本化しようとしましたが、紫電改零戦では来るB-29の迎撃に必要な高度ではまともに飛ぶことすら困難であり、機体が大きい雷電は高々度に必要なターボチャージャーや水エタノール噴射装置などを搭載する余裕がありそうなので少数の生産を続けていました。

油田などの重要な基地に対爆撃機用戦闘機として配備された雷電は、飛来するアメリカ軍爆撃機に少なくない損害を与えました。

 プロペラの剛性を見直し、高々度性能の強化をした雷電は、海軍の予想以上に連合軍と渡り合い、アメリカでは日本一の迎撃機であるとまで評価されました。

アメリカ軍は戦後接収した雷電をテストしたところ、オクタン価の高い高性能の燃料を使用したこともあり、日本軍の打ち出した雷電のカタログスペック以上の性能を示しました。また日本では最後まで解決されず死者までだした振動問題も全く問題ないとし、機体が大きいことによる操縦席の広さも相まって非常に扱いやすく高性能な戦闘機であると評価しました。その一方で、風防に装備された防弾ガラスはアメリカ軍の使用する12.7mm機銃の前では無意味であり、日本製のターボチャージャーや水エタノール噴射装置は稚拙でありかえって飛行性能の低下を招いていると評価しています。

次回は同じく単座戦闘機に大馬力の発動機を搭載した陸軍の二式単座戦闘機「鍾馗」を紹介します。